トスカーナの歴史あるワイナリー「マッツェイ」の次世代を担う25代目、ジョヴァンニ マッツェイ氏が(10月に)来日し、同社が2003年に設立したシチリアのワイナリー「ジゾラ」の初ヴィンテージである2006年から最新の2015年までを垂直試飲するという世界初の試みが行われました。セミナーには(マッツェイのワインを消費者へ知っていただけるよう啓蒙活動を行っている)「マッツェイ アンバサダー クラブ」のレストランの方々を中心に参加され、「シチリアワインの熟成」という貴重な体験をしていただくとともに、マッツェイ家のワイン造りの哲学を肌で感じていただきました。セミナーのレポートとともに、ジョヴァンニ氏のインタビューをお届けします。

ジョヴァンニ・マッツェイ氏 Giovanni Mazzei

ジョヴァンニ・マッツェイ氏 Giovanni Mazzei

マッツェイ家25代目。24代目現当主兄弟のうち、兄フィリッポ氏の子息。
イタリアだけでなく、ニューヨークや香港などでワインやイベント、金融など幅広いキャリアを積み、2014年よりマッツェイへ戻る。現在エクスポートマネージャーを務める。

マッツェイのファミリー アイデンティティと「ジゾラ」

キャンティ・クラシコの名醸〈カステッロ・ディ・フォンテルートリ〉を所有するマッツェイ侯爵家。
その25世代目にあたるジョヴァンニ・マッツェイ氏が、「小さな宝石」と讃えるシチリアの〈ジゾラ・ワイナリー〉
――― その魅力をうかがいます。

Q 伝統あるトスカーナ州のワイナリーを運営しているマッツェイ家が、
シチリアにワイナリーを所有することになったきっかけは?

最大の理由は、土地へのパッションです。父のフィリッポと叔父のフランチェスコがジゾラの土地に惚れ込みました。石灰質土壌で、海岸線から数キロという土地でありながら標高が100mもあり、背景に連なる山の影響で昼夜寒暖差が大変大きい、つまりブドウ栽培にはこのうえなく理想的なのです。 しかしジゾラは、はじめからブドウ畑であったわけではありません。オレンジやレモンなどの柑橘類やアーモンドの樹が生えており、中には自生しているブドウの古木もありました。父と叔父は、この土地の豊かさと多様さに限りないポテンシャルを感じ、新たな赤ワイン用のフロンティアを開拓しようと決心したのです。

Q ポテンシャルを秘めた新たな地において、マッツェイ家がトスカーナにおいて
25世代にわたり育んできた知識と技術を開花させよう――というわけですね。

もちろん知識や技術は導入しますが、強要するのではなく、刺激として与えたかった。あくまでもジゾラの地のポテンシャルを掘り起こすきっかけとして、です。

Q そのポテンシャルのひとつが、
シチリアの固有品種であるネロ ダヴォラですか?

その通りです。〈カステッロ ディ フォンテルートリ〉はバイオタイプの研究に取り組み、サンジョヴェーゼのクローンを36種類も開発しましたが、2003年に私たちがシチリアに土地を購入した時点では、ネロ ダヴォラにはまだバイオタイプもありませんでした。そうした研究に取り組むことで、ネロ ダヴォラ可能性を掘り起こしたかった。このような取り組みは、マッツェイ家のファミリー・アイデンティティーでもあります。

Q マッツェイ家のファミリー・アイデンティティーとは?

トスカーナにおけるマッツェイ家の歴史は11世紀初頭に遡ります。紋章は、木槌のモティーフ。木槌は、樽を製造する際に用いる道具ですから、元々は樽作りをしていたのでしょう。ワインの醸造をはじめてからは、およそ500〜600年。1398年にセル ラポ マッツェイが署名している取引契約書に記されている「キアンティワイン」という言葉が、現在確認される限り最古の「キアンティ」の記述です。 しかし私たちは、過去ではなく、未来を志向しています。「私たちの過去こそ、私たちの未来」。私たちは常に研究し、刷新していくのです。

Q トスカーナ州南西部のマレンマ地区の〈テヌータ ベルグァルド〉もそうした一例ですね。

その通りです。〈テヌータ ベルグァルド〉は美しい景観をもつ海辺の地にあり、優れた国際品種のブドウを育みます。しかし、国際品種のブドウでワインを造りたいからマレンマにワイナリーを求めたのではありません。土地に惚れこみ、リサーチを重ねた結果、 そういうスタイルに結びついたのです。

Q 〈ジゾラ・ワイナリー〉も同じアイデンティティー によって拓かれていますね。

親指の指紋のラベルは、マッツェイ家の軌跡をシチリア地に残したい、という気持ちを表現したもの。フランチェスコ叔父の拇印なのですよ。

Q そう考えると、今回の10ヴィンテージテイスティングは、とても意義深い試みですね。

世界に先駆けて日本でおこないます。私は、どうしても日本でこの垂直テイスティングをしてみたかったのです。日本の方のテイスティングはとても洗練されていますから、きっとネロ ダヴォラのポテンシャルを掘り出してくださるでしょう。

Q 新しいヴィンテージから遡るのではなく、古いヴィンテージから新しいヴィンテージへとのぼる
垂直試飲というのは、珍しいですね。

ジゾラの過去ではなく、将来のヴィジョンを考え、ひも解いていきたい――という私たちの志向を表現したものです。従来、あまり熟成の対象とされなかったネロ ダヴォラの、熟成による新たなシーンも拓かれるのではないかと考えています。是非とも、〈ジゾラ・ワイナリー〉の10ヴィンテージ試飲から、私たちマッツェイ家のファミリー・アイデンティティーを体験していただきたく思います。

ジゾラ 10ヴィンテージ テイスティングコメント

ジゾラ シチリア ノート ロッソ DOC

ブドウ :100%ネロ・ダヴォラ
熟成 :10ヶ月フレンチオークのバリック(225L、内30%新樽)
主な特徴 :しっかりした造り、森の果実と太陽を沢山浴びたオレンジの皮の風味、長く層になった味わい
料理との
相性
:スパイシーな魚のスープ、風味のあるパスタ、米を使った料理、牛肉や野菜のグリル
 「食卓で料理もワインも引き立つ」というマッツェイのワインのミッションに従って造られている。

テイスティングコメント

2006 ソフトでやわらかく、シルクのようになめらかですが、同時にフレッシュさも兼ね備えています。「エレガントな食事とマリアージュするワイン」。マッツェイのワインのミッションは食卓で楽しめるワインを造ること。そのアイデンティティーを感じていただける一本です。

2007 丸みのある、ネロ・ダヴォラらしい香り。凝縮感があり、甘味もあり、ボディのある印象です。完成された味わいで、フレッシュさもたたえている。デカンタージュすることで、落ち着いた味わいとして楽しんでいただけるでしょう。

2008 凝縮感のある色調は、寒暖差に由来。アロマもふくよかで、スパイシーなニュアンスもある。完成度の高い、長熟に適したワインです。2008年は、私たちにとって思い出深い年。土地への理解が深まり、土壌をどのように管理していくかという方針の定まり、造り方にも進化がありました。

2009 シチリアらしい気候で、バランスのとれたワインが生まれたヴィンテージです。凝縮感もあり、エレガント。ヴィンテージの個性はひかえめですが、その分、ネロ・ダヴォラらしい個性が発揮された、ジゾラのスタイルが明確に解るワインに仕上がっていると思います。

2010 イタリア中のワイン産地にとって、パーフェクトな天候に恵まれたヴィンテージでした。アロマが豊かで、ポリフェノールも理想的な含有率で、よく熟成しています。味わいも完成されていて、余韻も長い。良い気候条件に恵まれたヴィンテージの特徴が表れた、パワーのある一本です。

2011 暑い年だったため、糖度の高いぶどうが収穫され、アルコールも高め。エレガントさとパワーを合わせ持っています。香りも、フルーティーさが際立ち、口に含むとフレッシュ&フルーティーな印象です。ジゾラの安定した品質を表したワインだと思います。

2012 暑くて、乾燥し、ぶどうが理想的な成熟したヴィンテージ。年の特徴が、心地よく、丸みがあり、熟成的な味わいとして表現されています。クラシカルなネロ・ダヴォラの個性が感じられる味わいといってよいでしょう。また、年を経ることで、驚くほど品質の高い味わいに仕上がっています。

2013 偉大なるヴィンテージで、ワインスペクテーターのトップ100に選ばれました。アロマが際立ち、ストラクチャーがしっかりしていて、タンニンの存在感も高い。パワフルで、凝縮されていますが、フレッシュさもあり、飲みやすいワインに仕上がっています。年を重ねるごとに熟成し、素晴らしいワインになるでしょう。

2014 この年、シチリアの夏は、ぶどうの生育環境としてパーフェクトな気候でした。したがって、できあがったワインも、凝縮感が高く、フルーティーな味わいに仕上がっています。原料ぶどうの糖度が高かったため、アルコールの存在感もあります。フルーティーで心地よい、クラシカルな「典型的ネロ・ダヴォラ」といえるでしょう。

2015 この年は、夏のなかばに雨が降り、気温が低めだったため、収穫時期は遅めでした。ゆっくりと成熟したぶどうから造られたワインは、ストラクチャーがあり、香りの要素も複雑。過去のワイン……たとえば2010年と比べると、何種類ものスパイスやさまざまなフルーツが複雑にからみあった、多角的なアロマが感じられます。

試飲を終えて こうして10ヴィンテージを体験していただくと、〈ジゾラ〉のスタイルが、徐々に確立していったということがご理解いただけるかと思います。ワインの中の さまざまな要素が、バランスよく結びついてゆく様子が窺えます。私たちは、それこそ自然のなせる業、土地の力だと考えています。ぶどう畑ではなかった土地を開拓し、植えつけたぶどうの樹齢は12年となりました。成熟度が安定し、年が経つにつれ、調和がとれてきているのです。そうした土地の力のサポートを、これからも私たちはし続けていきたいと考えています。

ジゾラ10ヴィンテージセミナーにご参加いただいた、株式会社リストランテ・ヒロ 社長 山口氏にお話をいただきました。 「垂直試飲を通して感じた『ジゾラ』のワイン造りと熟成」 株式会社 リストランテ・ヒロ 代表取締役社長 山口一樹氏 2006年から最新ヴィンテージまで通して飲んだときに、どのヴィンテージもブドウの個性を損なうことなく、妙に強すぎることもなく、「食事と合わせて楽しむワイン」というマッツェイの考え方が貫かれていると感じました。また諸条件がよくない年でも無理矢理手を加えることなく、ヴィンテージの個性が素直に表現されていました。マッツェイはフォンテルートリも果実味の出し方が上手だと感じているのですが、ジゾラもその考えが脈々と受け継がれていることがわかりました。
私は熟成したからこその旨味を好むタイプなので、個人的には2006年が最も気に入りました。これだけの年数がたっているのに、このニュアンスが出せるのは素晴らしい。同様のタイプの08年、12年も好みのタイプです。こうしたタイプのワインには、軽めのだしをきかせたラグーのパスタやリゾットで、今の季節なら焼いた栗をボロボロっとほぐして、塩気が立ったペコリーノとかを上にかけてもいいですね。

株式会社 リストランテ・ヒロ http://www.r-hiro.com/p 代表取締役社長山口一樹氏