今回、情野氏が訪れた“アルゼンチン”と“チリ”は、南米を代表する2大産地。
お隣同士で中々区別がつかない!ワインも南米ワインとひとくくりにされがちです。
でも実は、アンデス山脈のおかげで対照的なワインができるんです!
- チリ
- 恵まれた気候(地中海性気候)
収穫前後に雨が少なく、良質なブドウを育てます - 太平洋からは冷たい海風が吹きこむ
フンボルト海流からの冷たい風により、気温が冷涼に保たれ、酸を感じるシャープな味わいに仕上がります
- アルゼンチン
- 年間2800時間以上の長い日照時間
果皮が厚くなり、タンニンや栄養分が豊富に蓄積します - 昼夜の寒暖差が平均20度と大きい
ブドウに引き締まった酸を与えます
この気候の違いが、テロワール、ブドウ、そしてワインにどのような影響を与えているのか、
情野氏が訪れた チリ「セントラル ヴァレー」 ラポストール と アルゼンチン「メンドーサ」 カテナ のワイナリーを通して
テロワール、ワイナリーのポイントを探ります。
アルゼンチン メンドーサは、アンデス山脈の東側の高標高の地域。
アルゼンチンで最初に本格的なワイン生産が始まった産地です。
現在ではメンドーサのブドウ栽培面積は159,800haで国全体の80%のワインを生み出します。そしてアルゼンチンの主要ブドウ品種である”マルベック”が多く栽培されています。
メンドーサ川流域、ウコ ヴァレー、北部、東部、南部メンドーサの5つのサブリージョンに分類され、その中でも高品質のブドウは、ルハン デ クージョ(869m)からトゥプンガト(1,524m)まで広がるエリアで育ちます。
アンデス山脈が太平洋からの湿った空気をさえぎり、降雨量が少なく、乾燥した気候。アンデス山脈からの雪解け水が河川を潤し、灌漑に用いてブドウ栽培を行っています。
※「日本ソムリエ協会 教本 2017」、「ボデガス カテナ サパータ 資料」参照
- 標高が高く、ブドウが樹になっている期間が長いため、ワインのタンニン分が十分にまろやかになる
- 図@ 標高の高さがもたらすアルコール度数の上昇が抑えられた長いハングタイム
ハングタイムが長ければ、成熟したタンニンンと自然の酸味が蓄えられます。
さらに収穫期の降雨がなく、昼夜の寒暖差は大きくなるので、タンニンは熟す一方で自然の酸味が蓄えられ、糖度が上がらないので、アルコール度数も高くなりすぎません。
- フィロキセラと共存できる世界に類をみない自根のブドウたち
- アンデス山脈の麓に広がるブドウ畑。水分の砂地を嫌うフィロキセラ害から免れて自根の樹が生き延びています。
古樹は「マルコタージュ」(取り木)という手法を用いられ若い樹へと再生されます。
- 降水量が極端に少ないのでブドウの病気が少なく、無農薬法で実践できる
- 図A世界のワイン生産地の平均降水量
メンドーサの年間降水量は、平均200mm
降水量が少ないことで・・・
灌漑をコントロールし、低収量に抑えることができ、雨が少なくブドウの樹にストレスをかけられます。
そのおかげでポリフェノールが増え、アロマが強くなり、より凝縮するブドウを生み出します。
※図、内容はボデガ カテナ サパータ作成資料より
ブドウ栽培と品質研究を行っているCatena Institute of Wineによると、「標高によるタンニンの質」「降水量」から来るブドウの品質が報告されています。
850m〜1500mに6つの自社畑を所有するカテナ。
メンドーサの地域で高標高のブドウ栽培がもたらす条件とは、
- (1)年間降水量が少なく、砂がちの土壌フィロキセラや病害虫の少なさ、灌漑の利用で収量制限を可能にし効率的なエネルギー蓄積を可能にする
- (2)日照の強さで活発な光合成を可能にし、糖分・タンニン分を生成。ブドウにとって適度なストレスを与え、果皮が厚くなる。
- (3)温度の低さとは、昼夜の寒暖差が大きいため、長いハングタイムを実現し成熟したタンニン、自然な酸味の蓄積、アルコール度の抑制を可能にしている
図B マルベックの単分子タンニンと総タンニン量の差
左茶色:単分子タンニン
右赤色:タンニンの総量
1,500mと標高が高くなり、日照量も増えます。単分子タンニン=収斂性が強く苦味が強いため、タンニンの総量が多い(重合したタンニンの割合が多い)と豊かで滑らかな味わいのワインとなります。
※カテナでは、標高の違いによる日照量(紫外線)の違いとタンニン(ポリフェノール値、アントシアニン値)の相関関係を実証し、Catena Institute of Wineで発表しています。
ワイナリー周りに広がるピラミデ畑では、カテナが入植したときから存在した、145種類のクローンを栽培し、その中からそれぞれの標高や土地に合った良いクローンを5種選別、他の畑にも植えて栽培しています。
標高1,500mに位置するアドリアンナヴィンヤードでは、ミクロクリマの研究を行っている。同じ畑でも区画によって土壌や土壌に含まれる微生物の違いを発見、区画ごとのワインを実現しています。
- A:ムンデュス バシユス テラエ
1.4ha カルシウムに富んだ土壌でそこに生息する微生物がブドウの根に働きかけ、様々なストレスへの抵抗と土壌の栄養分を吸収を助けている。
土壌:砂質⇒石灰質⇒礫岩 - B:フォルトゥーナ テラエ
5ha 砂の層が1mほどあり、他の土壌よりもストレスが少ないため、Good Luckの意味のFortuna Terraeと名づけられた。
土壌:砂質 - C:リヴァー ストーンズ
2.6ha 岩がちの土壌のためストレスを受けながら根をはる。斜面に面しており暖かい区画。
土壌:砂質⇒礫岩
「フランスでは200樽しか生産されないTaransaud社のT5と呼ばれる5年間※自然乾燥させた木樽を使用。T5はMOF(国家最優秀職人賞)の称号を持つ樽職人のみが手掛けている貴重な樽です。密度が高く、熟成に最適な環境が整っています。
また、カテナでは、様々な醸造タンクを所有しています。一般的なステンレスや木樽発酵にとどまらず、卵形のコンクリートタンクや200L程度の超小型ステンレスタンクなども使用して様々な研究を行っています。
※樽を作る前の乾燥期間は通常2〜3年
訪問ワイナリー アルゼンチン
ボデガ カテナ サパータ
1902年メンドーサでブドウ畑を開墾したことから始まります。3代目にあたるニコラス カテナ氏が1980年代に高級カリフォルニアワインの世界での成功・発展に刺激を受けて「アルゼンチンで世界に認められる最高のワインを造る」ことを目指して高級ワイン造りに取り掛かりました。ドリップイリゲーション技術の導入や高標高栽培の研究を行い、2001年フラッグシップワインである「ニコラス カテナ サパータ」を発売、世界でも高く評価されるワインとなりました。
現在は娘であるラウラ カテナ氏が中心となり、テロワールやマルベックの研究を行い、先駆者としてメンドーサ地域全体のブドウ栽培や品質向上に努めています。
ボデガス カロ
1998年ドメーヌ バロン ド ロートシルト(ラフィット)とボデガ カテナ サパータのコラボレーションしたワイナリー。
- カテナ・マルベック(アルゼンチン)とシャトー ラフィット・カベルネ ソーウィニヨン(フランス)の完全なる融合 高標高で収穫されるマルベックのまろやかな果実味と、カベルネ ソーヴィニヨンのタンニンや構成力、エレガンスを、ブレンドにより最大限に発揮させるワイン造りを行っています。
- ラフィット樽を使用するなど、完全なるシャトー ラフィットのワイン造りの技術をアルゼンチンで実現している
収穫されワイナリーに運ばれたブドウはステンレスタンクで発酵され、ラフィットグループがボルドーで採用している技法にならい伝統的なパンチング オーバーが使われています。
マロラクティック発酵後にブレンドされ、ポーイヤックにあるドメーヌ バロン ド ロートシルト社の樽工場で造られた樽のみで熟成しています。 - ぶれない、ラフィットの哲学を忠実に表現 ラフィットグループの海外ワイナリー統括、オリヴィエ トレゴワ氏の監修の下、ボデガス カロの指揮を執るのはフェルナンド ブシェーマ氏(下記写真右)。標高の差による異なるスタイルのブドウをブレンドし、ラフィットエレガンスを表現したコラボレーションワインの醸造に携わっています。
日本におけるチリのワイン輸入量は、フランスワインを越えて1位(2015年)。ブドウ栽培面積は、137,592haでカベルネ ソーヴィニヨンが全体の32%を占めています。
チリ、セントラルヴァレーは、首都州を含む3州に跨る広大なブドウ産地。
チリのブドウ栽培はこの地で始まったとされています。
マイポヴァレー、ラペルヴァレー、カチャポアルヴァレー、コルチャグアヴァレー、クリコヴァレー、マウレヴァレーの6つの原産地呼称があり、テロワールの特徴にあわせたワイン造りを行っています。
※「日本ソムリエ協会 教本 2017」参照
- 北を砂漠、南をパタゴニア、東をアンデス山脈、西を太平洋に囲まれた周囲と断絶された環境により、フィロキセラが存在せず、接ぎ木をしない全て自根の樹
- 海から山までの面積が狭く様々な気候のモザイクともいえるミクロクリマ
- ボルドーでは栽培がほとんど見られないカルメネールを活かしたプレミアムなワイン造り
乾燥した晴天による昼間の日照・高温とアンデス山脈、太平洋からの涼しい風による涼しい夜の寒暖差があり、ブドウ栽培に適した環境が整っています。
ラポストールの畑では、火山性の養分の少ない土壌での丁寧なキャノピーマネジメントと灌漑による成育コントロール、密植と収量制限による凝縮味のあるブドウを実現しています。全ての畑で、オーガニック農法(Ceres認証)を行い、クロアパルタ畑では、プレパラシオンや月齢カレンダーを採用するビオディナミ農法(Demeter認証)を実施しています。
7階のうち5階が花崗岩地形の中に組み込まれた構造のワイナリー。(下記絵図)
手で除梗し、天然酵母で発酵したブドウでクロ アパルタのワインを造ります。
訪問ワイナリー チリ
ラポストール
1994年に設立したワイナリー。前当主がフランスで培われた経験を生かし、チリのテロワールを表現を目指しました。
コルチャグアヴァレー、カチャポアルヴァレー、カサブランカヴァレーに370haの自社畑を所有し、現当主であるシャルル ド ブルネ マルニエ ラポストール氏(下記写真右)となった現在も、オーガニック農法やビオディナミ農法を実施し、ありのままを表現するワイン造りを行っています。
ブドウ栽培において、密植と収量制限により凝縮観のあるブドウを実現、赤外線写真で生育状況をモニターで管理するなどの取り組みをし、また、醸造においては、ブドウに負担をかけず自然な状態でワイン造りを行うための完全なグラヴィティーフローシステムを導入し、妥協しないワイン造りを行っています。
ロス ヴァスコス
1750年にスペイン人によって創業されたワイナリーを1988年からドメーヌ バロン ド ロートシルト(ラフィット)によってい経営が開始され、ラフィットの知識と技術を注ぎラフィットエレガントなワイン造りを行っています。
- 総敷地面積3,600ha、うちブドウ栽培580haという広大な土地 自社畑では、カベルネ ソーヴィニヨンとシャルドネを主に栽培しています。太平洋から約40km、海から吹く混む風の影響で朝夜の気温は冷涼に保たれ、ブドウ栽培に適した環境が揃っています。
- 殺虫剤や除草剤など化学物質に頼らない方法を実施 キャノピーマネジメントやドリップ イリゲーションなど、ブドウへの風通しや湿度調整を考慮したブドウ栽培を行っています。広大な所有畑も非常に丹念なブドウ栽培の管理をしています。
- 品質向上のために手間を惜しまない管理方法 樹齢による区画(樹齢10年前後、40〜50年、60年以上)のグループにわけ、違った管理法を取っています。またグリーンハーヴェストによる収量制限や手摘みでの収穫など、畑において惜しみない手間をかけています。