ブシャール ペール エ フィスの輸出・広報担当である西山氏から、
収穫情報などブルゴーニュの「今」をお伝えする情報を
お届けします。

今月からしばらくの間この場をお借りして、ブルゴーニュの食・住のことからブシャール・フェーブルまで、他愛もないことから、時には真面目にためになることまで書き綴って行きたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
フェーブル2008年ヴァイヨン畑での収穫の様子
第一回目は、自然に優しいワイン造りついて。
自然に優しいというと、減農薬や無農薬、ビオディナミという農法が頭に浮かぶ方が多いと思います。確かに自然環境を考える上でブドウ栽培は大切な要素です。
実際にこういったアプローチはブシャールやフェーブルでも始めています。
ブシャールではボーヌの1級畑の区画で、フェーブルは2008年はヴァイヨンとモンマンで、2009年は12へクタール分、2010年からはドメーヌの半分の面積に値する25へクタールを有機栽培に切り替える方針です。
自然に対する優しさは人間の体にも結局は帰ってきますから、できる限り広げていくことは素晴らしいと思います。
ただ、これだけやっていれば、ワイン造りで「善」のような考えは違うのではないでしょうか?
世界的規模のワイナリーの社長がハイブリットカー、ビオで売っている生産者が高級スポーツカーに乗っていることもありますから、どちらが環境に対しての認識があるのか疑わしいのがワインの世界です。
ワイン造りはブドウ栽培だけではありません。
ビオで有名な某ドメーヌは清澄の作業をカゼインで行なっているそうですが、その原料はビオなのでしょうか? 残念ながら、醸造から瓶詰めにビオなる認証はありません。
ブドウ栽培に加え、醸造から熟成、瓶詰めの作業で、自然と人間に対する「優しさ」を考えている生産者というのは極少数だと思います。
新醸造所外観
では、ブシャールが畑以降に行なっている取り組みをいくつかあげて見ましょう。
ご存知の方も多いと思いますが、ブシャールでは2005年に新醸造所を建設しました。この施設は3層構造になっていて、ポンプなど無駄な動力を使わずワイン造りが行なえる仕組みで、自然と人間に優しい配慮がされています。
例えば照明について。
さすがに地下2階にある樽熟庫は、人工の照明ですが、収穫ブドウの受け入れと選果を行なう地上階と、吹き抜けになっている地下一階の醸造を行なう部分は、大きな天窓からの自然の光を利用しています。
日がさしている間は人工の照明は基本不要です。これには電力を極力使わない自然への配慮です。また、人工の照明に比べ、自然の光はそこで働く人間のストレスも和らげてくれます。ですので、これは人への配慮でもあります。
次に床材。気をつけなければいけないのは、清掃の際の赤ワインのシミ。できるだけ余分な水や薬剤を使わずに落とせるかが、自然への配慮になります。しかし、そういう素材に限って表面に凹凸がないので、働く人間が滑って怪我をするリスクが高まります。
そこで10種類程度の床材のサンプルを取り寄せ、実際にワインを垂らしたり、人間が上に乗ったりと、試験をしながら、滑りにくい素材と洗浄が簡単な素材を選ぶ…といった具合に行ないました。
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![]() ▲ステンレスタンク |
▲とても明るい選果台 |
▼樽熟庫の壁
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樽熟庫は地下10メートル以上も深く掘ったおかげで、エアコン不要。
その外壁は地中の湿気が浸透する特殊な素材で加湿もいりません。自然を活用しているのです。また低温のセラーで乳酸発酵がゆっくり行なわれ、発生した炭酸ガスがワインを守り、使用するSO2の添加を抑えることも可能です。
環境に配慮だけでなく、作業が楽になることで、働く人間の負担も危険も減るのです。
ちなみにトラクターや農機具の洗浄に使う水は、この施設で溜め込まれた雨水をフィルターにかけて再利用しています。
というような(まだ挙げれば他にも例はたくさんありますが)ことをブシャールでは実践しています。
ですので、これからはブドウ栽培が有機か否かだけでなく、ワイン造りに関しても「環境を考えた」造り手に注目していきましょう。
【西山 雅己氏】
サントリー「カーヴ ド ヴァン」勤務後、2001年にフランスに渡り、プロヴァンスのワインショップで研修。
2002年CFPPA(国立農務大臣認定ワインプロフェッショナル養成機関)研修時に、ブシャールとフェーブルにて研修。
2003年日本人初の正規採用となり、ブシャール ペール エ フィスとウイリアム フェーブルの輸出・広報担当を担当している。
2010年からはシャンパーニュ アンリオの輸出・広報担当も兼任。