コルトン畑
130ヘクタールに及ぶ自社畑を所有するコート ドール最大級のドメーヌ ブシャール ペール エ フィス(以下ブシャール)。西山さんが畑を案内してくれました。
西山氏:森に近い、高い標高のコルトンは、風通しのよさが利点ですね。しかし鹿が多くてブドウを沢山食べられてしまいます
情野氏:草が多いですね。
西山氏:表土が浅いため、草を伸ばして表土の流出を防ぐことをしています。道を挟んでコルトンとコルトン シャルルマーニュの畑になります。両方とも約3.5ヘクタールほどあります。昔はこのような標高の高い畑は注目されませんでしたが、今は注目されるようになっています。温暖化の影響なのか、ブドウは熟して糖度も上がりますから、いかに酸を残すかということを考えなければなりません。
情野氏:水はけもいいですね。
西山氏:そうですね、土が流れてしまうので土を上に戻さなければいけません。草を生やすことで表土の流失を防ぐようにしてます。ここは広い区画なので、シャルドネは日を当てすぎないように畝は北から南の方向に、ピノ ノワールは東からの朝の光があたるような向きに合わせて畝を作っています。
コルトン シャルルマーニュで作業する人たち
ちょうどコルトン シャルルマーニュの畑で作業している人たちに会いました。
西山氏:今日は何時から作業してるの?
作業人:朝5時からの作業だよ。
情野氏:何時まで作業予定?
作業人:4時までだよ。午後は暑いから、この時間割は助かるね。家に帰ったら昼寝するよ。来週はもっと暑そうだから、そして嵐の予報も出ていて心配だね。
西山氏:この人たちは、このあたりの畑を巡回して作業する人たちのグループですね。彼らは一つの畑を担当するわけではなく、色々な畑で作業を行います。ボーヌ近郊はこのようなタイプの作業人たちが多くしっかりとスケジュール管理されています。そしてそのスケジュールに従って畑を回り作業をしています。ボーヌから離れた畑は固定の作業人に任せていることが多いですね。この人たちはターシュロンと呼ばれ決められた畑を担当して作業します。自分たちのスケジュールで自由に働きます。何代かにも渡ってその畑の管理を任されていますので、実際の畑の所有者はブシャールですが、彼らにとっては自分たちの畑のようなもので、モチベーションが高い人たちが多いですね。その他の畑の作業人タイプとしては、重機を扱う人たちもいて、全部で農作業の人たちは3つに分かれます。
上:ターシュロン
下:情野氏、西山氏、ターシュロン
続いて訪れたモンラッシェとシュヴァリエの畑では、ターシュロン(特定の畑の作業を行う人)が作業をしていました。
西山氏:モンラッシェとシュヴァリエの畑は、ターシュロンによって管理されています。近くのコルポーという村に住んでいる親子3代に渡り同じ畑の監理を任された熟練です。
西山氏:昨日雨が降りました?
作業人:夜中に雨が降ったけど、雹はなかったよ。
西山氏:畑が綺麗ですね。コルトン シャルルマーニュよりブドウが大きいですね。
作業人:日照に恵まれているからだよ。昨晩の雨は3センチ降ったけど、もう土はほぼ乾いているよ。
西山氏:今日の夕方もまた嵐の予想って聞きましたけど?
作業人:空気が重いでしょ?
情野氏:空気が重いって、畑の人の言葉ですね。さすがですね。
作業人:私は53年この畑で仕事をしていますよ。でもモンラッシェはなかなか飲めないな。
西山氏:ブドウは既に形になっていますね。
作業人:随分と生育が遅れていたけど、取り戻してきたよ。
西山氏:シュヴァリエは2.5ヘクタールの畑の広さがあるのです。
情野氏:どれくらい1人で担当しているのですか?
作業人:1人でだいたい3.3ヘクタールくらい担当しているよ。他の人がどのくらいの広さを任されているかは知らないけど、自分はこの畑の担当だからね。ムルソーグットドール、ヴォルネーシュヴレの一部も担当しているよ。もうほぼ今日の仕事は終了したから、これからお家に帰ってお昼としますか。ブシャールのワインを日本でたくさん売ってね。
近年の厳しい自然環境の中でも丁寧に畑で仕事をしてくれる作業人がいるからこそ、ブシャールのピュアなワインのスタイルが造れるというクリストフ ブシャール氏(以下クリストフ氏)。改めてクリストフ氏の想いを語っていただきました。
情野氏:ブシャールさんの好きなワインは何ですか?
クリストフ氏:好きなワインが多すぎますね。例えば、ヴォルネー カイユレは好きなワインですね。常に品質が高く、またブシャールのファミリーがブルゴーニュで最初に取得した畑ということもあり、私たちにとって歴史的に大きな意味のある畑でもあります。
情野氏:白に関してはどうですか?
クリストフ氏:コルトン シャルルマーニュです。緊張感があって、ミネラルが美しいです。
情野氏:ブシャールのコルトン シャルルマーニュは美味しいですね、私も好きです。
クリストフ氏:あとは村名の区画になります。ムルソー レ クルが好きですね。勿論ワインのスケールとしてはコルトン シャルルマーニュとは異なりますが、同じようなベクトル、要素、スタイルを持っているワインで、標高も同じように高いところで造られています。ムルソーの中でも非常に緊張感があり、ピュアな味わい。バターのような重さを感じるムルソーとは違いますね。もっとも、そういった重たいムルソーはブシャールのスタイルとは異なるワインです。
情野氏:確かにブシャールのワインの中には重さを感じるようなものはありませんね。
クリストフ氏:ありません。
ブシャール氏、情野氏
情野氏:それがブシャールのスタイルということになりますか?
クリストフ氏:そうですね。シャルドネの問題というのは過熟になってしまうと、その裏にある畑の個性が台無しになってしまいます。シャルドネは世界中で造られるワインではありますが、私たちが探しているのはシャルドネ品種の特徴を表現したワインではなく、テロワールの個性を忠実に反映したピュアなワインです。
例えば、ムルソー ジュヌヴリエールは比較的早熟な畑ですが、他の生産者のように収穫を遅くしようと思えば遅くすることができます。しかしその数日の違いであっという間にブドウの糖度が上がり、アルコール度数の高いワインになってしまいます。そうなってしまうと、ピュアさがなくなり、荒々しい印象が残り、テロワールの印象は消えてしまいます。
情野氏:ピノノワールに関しても、同じ考えですか?
クリストフ氏:そうです、いつも同じです。醸造責任者のフィリップ プロも言っていたと思いますが、ブシャールでは全部テイスティングで決めます。固定概念ではありません。朝と夜に同じタンクからワインをテイスティングします。そこであと何日マセラシオンを続けるか、ピジャージュをするかしないか、といったことを決めていくのです。
それぞれの過程で、それぞれの人が自らの仕事を適切に行っていくことで、完成するワインには、携わる人たちすべての想いが詰まっています。時代と共に進化しながら未来へと続いていく姿を垣間見ることが出来ました。ブシャールの秘めた想いが受け継がれ進化し続けています。