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アンバサダーが導く「アンリオトリロジー」の世界

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生産者との出会い アンリオ、フェーブル、ブシャールで状のソムリエが現地フランスで出会った生産者たちの想いを届けます。
Domaine Bouchard Père & Fils 第2回「醸造責任者として、ブシャールの目指すワインを造るために」

フィリップ プロ氏
フィリップ プロ氏

アンリオアンバサダーの訪問ということで、特別にサヴィニーの醸造施設で、醸造責任者のフィリップ プロ氏(以下プロ氏)と熟成中の2012年のワインの樽試飲をする機会に恵まれました。プロ氏は1978年からブシャールの醸造チームで働き、1992年より醸造責任者として務める熟練のスタッフ。

ワインを造るときのフィロソフィーのお話から始まりました。

プロ氏:まずはテロワールが第一です。自分たちはそのテロワールの仲介者、翻訳者として存在していると言ってもよいでしょう。私たちはブルゴーニュのドメーヌですから、シャンパーニュメゾンのような「メゾンの味」というものは基本的には存在しないと考えています。

情野氏:なるほど。それでは赤、白それぞれのワインの醸造の際に気をつけていることはありますか?

プロ氏:赤ワインは、発酵の間に少しずつ仕事を積み重ねていくことによってワインを仕立てていくという作業です。その中でヴィンテージの特徴を壊さないようバランスの取れた抽出をすることを注意しています。コート ド ボーヌの特徴は、常に熟度があり、また果実味に少しジャムのような味わいがあり、コート ド ニュイは、常に赤い果実のフレッシュ感があります。どちらの地域の赤ワインを造る際にも同様に、ブドウの生命力、果実をカリっとかじった時のようなクリスピーな感覚を表現することを大事にしています。

情野氏:白ワインに関しては、いかがでしょうか?

プロ氏:ブルゴーニュの白ワインに関しては、ブリオッシュのような香ばしい樽の香りのするものから、緊張感のある引き締まった直線的なワインまで様々なものがあります。ブシャールでは収穫のタイミングを早くして酸をしっかり残すことを重視し、テクスチャーも大切にしています。

プロ氏と西山氏
プロ氏と西山氏

情野氏:なるほど。では、赤ワインと白ワインの醸造は全く違うものだとは思いますが、いかがですか?

プロ氏:おっしゃるとおり、赤ワインの醸造と白ワインの醸造は全く違う作業です。赤の仕込みは発酵の間にワインのクオリティを築き上げるという仕事で、発酵が終わった段階である程度ワインの形が見えているのが赤ワインの醸造です。白ワインの醸造に関しては、収穫の段階から樽熟成が終わるまでのすべての工程において、細心の注意が必要で、収穫が終わって1年経ってやっとワインの形が見えてきます。細かい作業を積み重ねていって、最終的に出来上がったときに全体像が見えてくる、油絵のようなものです。

情野氏:赤ワインという早めにある程度結果の見えるワインがあるからこそ、白の繊細な作業をやり続けることができるということでしょうか?

プロ氏:そのとおりです。白だけ造っていたら、毎日腰が痛いという気分になるかもしれませんね(笑)。ワインを造るときには、「忍耐」そして常に「更なる高みを目指す」という気持ちで取り組むことが必要です。

サヴィニー醸造施設
サヴィニー醸造施設

情野氏:近年、醸造過程のなかで、何かを変えたり、新しく始めたことはありますか?

プロ氏:ブシャールでは、樽を転がすことでバトナージュの作業を行っています。バトナージュでは、樽の栓を開けなければいけませんが、樽を転がすためには栓を開ける必要はなく、二酸化炭素(ガス)を保ったまま樽の中の液体を攪拌できるからです。

情野氏:二酸化炭素を保つためというのは、還元の状態にするということですか?

プロ氏:そうです。バトナージュという作業は、ワインを豊かにする作業でもありますが、そこで栓を開けて作業をしている間にも、酸化的な要素をワインに与えてしまいます。ですから、酸化をさせずにゆっくりと攪拌するというのが目的です。

情野氏:どのくらいの頻度で行うのですか?

プロ氏:一ヵ月半に1度くらいです。バトナージュはコツコツやる作業ですが、樽を転がすのは頻度が少ないので、夏休みの間にはやらなくてすみますよ(笑)。また2012年は収量が少なかったので、樽を転がす作業も非常に楽でした。

情野氏:いつからこのような方法を始めたのですか?

プロ氏:2003年から始めて既に10年になります。始めた年は、重いワインになってしまう可能性のあるヴィンテージでしたので、フレッシュさを残さなければなりませんでした。バトナージュの作業で酸化的な要素が加われば、更に重いワインになってしまうと考え、この方法を始めました。2003年は酸が穏やかなヴィンテージでしたからね。この方法を取り入れたことで、比較的重心の低いボーヌのエントリーレベルの白ワインでも、今でも美味しく飲める状態を保っています。

情野氏:大変な作業ですが、素晴らしいですね。プロさんにとって、仕事が大変と思うことは、ありますか?

プロ氏:実際ブシャールの醸造チームで仕事をしている人は全部で14名と非常に少人数です。この14名で瓶熟庫での仕事から樽に詰める仕事までを全てを行っています。ただ収穫後のアルコール発酵の時期には、80名くらいの人が出入りしますので、この時ばかりは状況が異なりますが。
一番大変なことは、決断をして実行をしていくという醸造の作業を、自分の頭の中では分かっていることですが、その場その場で正確にスタッフに伝え、作業を進めていくということです。

情野氏:それは1つのキュヴェ、1つのアペラシオンに対して決断が必要ということですね?

プロ氏:そうです、各キュヴェに対して、1つ1つ決断をして実行をしていかなければなりません。私が醸造責任者となった1992年当時よりも自社畑が増え、120種のワインを造らなければなりません。その120種のワインはそれぞれ異なります。1つのワインに向き合っているときには、他のワインのことをすっかり忘れてしまって、そのキュヴェに没頭しています。そしてその目の前のワインの個性を引き出し、仕立てていくことに専念しています。

情野氏、プロ氏
情野氏、プロ氏

情野氏:最後に、プロさんが考えるブシャールのワインのスタイルとは何でしょうか?

プロ氏:難しい質問ですね。15年前は化粧っけのあるワイン、樽がきいたワインが多かったですね。今は料理も変わり、よりシンプルな味付けが好まれるようになってきているように、私たちのワインも変わっています。決してぶれてはいけないことは、良いブドウを使い、その素材を生かすために、いかに正確な仕事をすること。そして、ブシャールの目指すワインは、素材の良さを生かした正確でピュアなワイン、テロワールの素性を忠実に反映させたワイン、だと思っています。樽の香りはいくらでもつけられますが、テロワール由来の香りは人には作れません。だから私たちは、それを生かしたワイン造りをしてあげなければならないのです。

プロ氏と一緒に試飲した2012年は、真にブシャールの目指すワイン、正確でピュアな味わいのワインに仕上がるであろうことを予感させられる味わいでした。

第3回「畑からセラーへ。人と人がつなぐブシャールのスタイル」へ

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