Bouchard Père et Fils
概要
1731年創業。1775年に初めての自社畑を
取得後、ブルゴーニュの銘醸畑を積極的に
取得し現在では130haにも及ぶ自社畑を
所有する。
フランス革命以前の1731年に創業したブシャール ペール エ フィスは、1775年に初めての自社畑「ヴォルネー カイユレ」を取得後ブルゴーニュの銘醸地を積極的に取得。現在、130ha(うちグランクリュ12ha、プルミエクリュ74ha)の自社畑を有するコート ドール最大級のドメーヌである。
1820年に15世紀の要塞シャトー ド ボーヌを取得し、以来瓶熟庫として利用。厚さ5mの城壁に護られた地下カーヴは、地下水の影響もあって温度12℃、湿度75%に保たれ、今も19世紀のワイン約3,000本が眠っている。
1995年にシャンパーニュの老舗アンリオ家のジョゼフ アンリオがオーナーに就任し、ワイン造りに於ける全工程で徹底した品質改革を実施する。歴史に裏打ちされたレガシーを活かしながら、小型のプラスティックケースによる手摘み収穫の導入、完全オーダーメイド樽の調達などの取り組みを次々に敢行。2005年新醸造所完成により、ブドウが持つ本来の力、ブルゴーニュ屈指の銘醸畑の潜在能力を十二分に活かすワイン造りが可能となり、繊細さ、上品さ、みずみずしさという特徴にさらに磨きがかかっている。
畑と造り
300年近い歴史をかけて構築された
テロワールのコレクション。
130haに及ぶ自社畑のうち、
グランクリュが
12ha、
プルミエクリュが74haと
全体の2/3が
プルミエクリュ以上となっている。
ブシャールは自社畑だけでコート ドールに130haを所有。その2/3はプルミエクリュ以上となっており、モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュといったボーヌのグランクリュを始め、ボンヌ・マールやエシェゾーなどブルゴーニュラバー垂涎の銘醸畑が名を連ねる。
ブルゴーニュ屈指の銘醸畑を有していたブシャールであるが95年にアンリオ家がオーナーになると栽培や醸造の面で様々な改革が行われた。
多産なブドウから品質重視のクローンへの植え替え、村名以上での手摘み収穫の徹底、収穫かごの小型化、リュットレゾネ、さらにはオーガニックへの着手などである。
中でも特筆すべきは2005年に建てられた新醸造所であろう。
ボーヌ方面へもニュイ方面へもアクセスの容易なサヴィニ・レ・ボーヌに建てられたこの醸造所は地上1階、地下2階の3層構造。いわゆるグラヴィティ フローの仕組みとなっており、重力に従いポンプを極力使用せず醸造から樽熟成までを行うことが出来る。
地上1階は丁寧な選果ができる広い選果スペース。そこからブドウは地下1階の発酵槽へと運ばれる。発酵槽(木またはステンレス)は様々なサイズが用意されており、区画のサイズに応じた細かな醸造が可能となっている。樽熟庫は地下2階となっている。ここは地上から10mの深さとなっておりワインの熟成に適した温度や湿度を自然に得ることが出来る。
自社畑のワインは勿論、買いブドウのワインも基本的にはここで醸造される。
2013年から醸造責任者に就任したのが今回インタビューを行ったフレデリック ヴェベールであるが、彼が醸造を行うようになってから赤ワインでは全房発酵を取り入れるようになった。
新樽の使用は控えめであり白では10-15%程度、赤でも最大で25%程度。
ワイン
130haの畑を所有するブシャール。
歴史的ドメーヌを象徴するのに
ふさわしい7つの偉大なワイン。
モンラッシェ
ご存じのようにブルゴーニュの中でも格別な扱いを受けるグランクリュ、それがモンラッシェ。総面積は8haに満たないこのグランクリュのうち、比較的広い0.89haの区画をブシャールが所有している。しかも南隣はドメーヌ ド ラ ロマネ・コンティが所有する区画である。また、斜面の上部から下部までをくまなく有していることも特筆すべき点であろう。偏りがなくバランスの良いモンラッシェが生まれる。
さらに、この広さがあるからこそ、もしブドウの樹に問題があれば植え替えなどの厳しい判断も辞さないと言うのは心強い。
ワインの特徴は、力強く豊かで、柑橘系の香りとハチミツのような香り、スパイスを思わせる複雑さも併せ持つ。肉付きが良く爽やかで、すべてが整った、これぞモンラッシェ。
シュヴァリエ・モンラッシェ
石壁を隔ててモンラッシェの上部に位置するのがシュヴァリエ・モンラッシェ。ブシャールはシュヴァリエ・モンラッシェの総面積7.5haのうち2.33haを有する最大所有者である。特に注目したいのが4つの段丘に分かれたすべての斜面の畑を所有する唯一の生産者であることだ。4つの段丘はそれぞれ地質学的に異なる断層によって隔てられており、収穫時期も個性も異なる。
我々が注目したいのは4段目、つまり最上段の区画である。この区画はとても狭く、所有しているのはブシャールのみ。急峻な斜面を登っていくと、風が強く吹き付けており、周囲にはむき出しの岩が目立つ。険しくしかも極小の区画だが、この区画がワイン全体にブシャールのシュヴァリエ・モンラッシェらしいミネラル感と張りをもたらしている。
■各段丘の特徴
段丘❶
モンラッシェのすぐ上に位置し、フラットな形状。表土は厚く石は少ない。
丸みと粘性、黄色い果実の味わい。
段丘❷
平均斜度15°でよりチョーク質の水はけの良い土壌。
柑橘類の皮やパンデピスの香りに果実味とミネラルのバランスが良い。
段丘❸
平らで表土は薄く、岩盤が顔を覗かせることもあり水分は少ない。
バランスの良い果実の甘みのあるワイン。
段丘❹
ほぼ岩盤がむき出しの貧しい土壌。収量は小さく全体の5〜6%相当。
ミネラル感と塩味が強く、ブレンドされるとキュヴェにフレッシュ感と緊張感を与える。
シュヴァリエ・モンラッシェ ラ カボット
モンラッシェとシュヴァリエの間に位置する0.21haの小区画であるシュヴァリエ・モンラッシェ ラ カボットは、INAOの規定に従って現在はシュヴァリエ・モンラッシェ区分されている。しかし、現地を訪れると、カボットはモンラッシェとシュヴァリエ・モンラッシェを別つ石壁の下側、つまりモンラッシェ側にあり、畑の畝もモンラッシェと境目なく繋がっていることがよくわかる。収穫時期になるとその境界にはテープが張られる。それほどその境界は見分けがつかないということである。1936年のINAOによるアペラシオン格付けまでは、モンラッシェとして認識されていたという事実がそれを裏付けている。
一方で注意深く土地に目を注ぐと、カボットとモンラッシェにはその斜度や土壌の組成が異なり、キュヴェにも明確な違いが見ることができる。深い果実味と力強くコクのあるモンラッシェ、ミネラル感にあふれ親しみやすく活力のあるシュヴァリエに対して、カボットはまさにその中間。モンラッシェには無いミネラル感を持ちながら、柑橘類の香りに少々の塩味、ハチミツのような深みと存在感を味わうことができる。付け加えると、カボットでは19年ヴィンテージ以降マグナムボトルのみの生産となっているため生産本数は極めて少ない。
コルトン・シャルルマーニュ
コルトン・シャルルマーニュは、標高約400mの丘陵地コルトンの丘の上部斜面に広がる約160haのグランクリュ。面積が広大でコルトンの丘を取り囲むように広がっているため、斜面の向きや角度も様々であり、畑によってワインの質や個性も大きく異なる。
ブシャールが所有するのはコルトンの丘の最上部、標高約280〜320mの東向きの斜面(3.65ha)で区画名はル コルトン。ここからは、丘の防風林を間近に見ることができる。畑の特徴は、まず標高が高いため気候が冷涼で土壌の水はけが良いこと。また畑が東を向いていることから、一日の終わりに強い西日の太陽の影響を受けずに済むこと。さらに乾燥した北風が常に畝の間を吹き抜けて適度に水分を飛ばすこと。これらの卓越した気候条件が、ブドウを病気から守り、ワインに酸を保ちつつ凝縮感をもたらしてくれる。
ル コルトン
地図に示される通り、ピノ ノワールは同じシャルドネと同様にル コルトンの区にある。このため、畑はコルトン・シャルルマーニュ同様の条件を有している。つまり、まず高い標高により気候が冷涼であること。東向きの斜面により暑い西日を浴びずにすむこと。さらに吹き抜ける乾燥した北風が水分を飛ばしてブドウを病害から守ってくれることである。加えて、表面の赤土層は薄く最大でも70〜90cm、その下は緻密な石灰岩で覆われ水はけの良い土壌となっている。この土壌に先の気候条件と全房発酵(30〜40%程)が加わって、ブシャールのル コルトンは非常に繊細でエレガントなコルトンとなっている。面積は3.55ha。
ボンヌ・マール
1996年、ブシャールはシャンボール・ミュジニー村にあるグランクリュのボンヌ・マールを取得。区画は畑の中央部を約150mに渡って斜面に対して平行に延びており、小路によって分けられた斜面の下部と上部を両方所有している。約3分の2の下部は赤土で鉄分がやや多い粘土質の土壌。スミレの花のような独特なアロマ、心地よい丸みのあるタンニン、ある種の甘みと非常に魅力的な口当たりをもつワインを生み出す。一方3分の1の上部は白い泥灰質で下部に比べやや痩せた土壌で構成され、繊細で花のような香りや柔らかさをもたらす。
上部と下部で異なる性質を持つため、ブシャールではそれぞれ別に醸造しブレンドすることで、下部のワインだけでは生まれない牡丹やしおれたバラの花、ポプリなどを思わせる繊細な側面を与えて、よりエレガントなボンヌ・マールに仕上げている。面積はわずか0.24ha。
ボーヌ グレーヴ ヴィーニュ ド ランファン ジェズュ
ボーヌ グレーヴ ヴィーニュ ド ランファン ジェズュは、ボーヌ グレーヴの中央部に位置する区画で、ブシャールのモノポールである。ボーヌ グレーヴはかつてジュール ラヴァルやカミーユ ロディエといった19世紀から20世紀前半の識者からグランクリュ同等の評価を得ていた畑である。中でもボーヌ グレーヴ ヴィーニュ ド ランファン ジェズュは、極上のピノ ノワールを生む伝説の区画とされてきた。
特筆すべきは、丘の中腹かつ畑の中央にあるため日当たりが良く同時に水はけも優れていること。また、周囲のグレーヴが粘土石灰質であるのに対して、約1.5m隆起した段差の上にあるこの畑は砂利質、泥灰質あるいは砂質に近いため、ブドウ樹の根が地中深くまで伸びやすい土壌を有していることである。
上記により生み出されるワインは他のボーヌ グレーヴ とは一線を画し、小ぶりなスミレやスパイスを感じさせるアロマと絹を思わせる口当たりに複雑さが加わり、長く余韻を楽しむことができる。また、非常に長い年月を経ても若々しさを失わないという話も聞く。インタビュー内で実際にフレデリック氏が100年を超すヴィンテージについても語っているがその様は驚くばかりである。
ちなみにボーヌ グレーヴ ヴィーニュ ド ランファン ジェズュは、神の声を聞きルイ14世誕生を予言した修道女を祝福するために寄進されたものであり、その意味は「幼子イエスのブドウ畑」。ラベルには礼拝堂に祀られた幼子イエスの木造が描かれている。
フィロソフィー
ブルゴーニュが誇る遺産ともいえる
豊饒なテロワールを後世に受け渡していくこと。
過酷なものであってとしても
そのヴィンテージの特徴を尊重すること。
ワインの声に傾け
個々の畑の特徴を写し取るワインを造ること。
醸造家としてベタンヌ+ドゥソーヴからも手腕を高く評価されるフレデリック ヴェベールは、前醸造責任者の下10年以上の経験を積み、2013年に醸造責任者に就任。
まさにブシャールの伝統と個性を守り続ける職人肌の醸造家、というのがヴェベールの第一印象。所作も控えめな彼が、サヴィニ レ ボーヌに2005年完成した新醸造所地下2階の広大な樽熟庫にて、静かに語り出した。
エクスペリエンス
テロワールとヴィンテージの特徴を
解像度高く写し取ったワイン
透明感と美しい心地よさ
およそ300年という長い歴史を誇るドメーヌ ブシャール ペール エ フィス。
彼らの根底に流れるのは、ワイン造りにおける「テロワールの表現とヴィンテージの尊重」という確固たる理念だ。
さらに近年は130haに渡る良質な畑というレガシーに加え、栽培や醸造に投資することでワインの品質を格段に向上させた。これによってブシャールのワインには各テロワールの特徴やその優れたテロワールから生まれるブドウの美しさがより高い解像度で描き出されるようになった。
洗練された繊細な料理に見事によりそうブルゴーニュが手に入る。
ブシャールはよく歴史を語るが、それには最もな理由がある。長い歴史を通して蓄積されてきたヴィンテージごとの気候やその年のワイン造りに対するメモ、さらにはその年の古いボトルまでもが残されている。
これらは唯一無二のノウハウの集合体となり、ワイン造りに活される。このため常に安定したワインを造ることが出来る。いつでも安心してボトルを開けることが出来るのは頼もしい。
今回はブシャールを代表する7つのワインを取り上げたが、本来であればもっと知ってほしいワインがたくさんある。
アンシェンヌ キュヴェ カルノと呼ばれるヴォルネー カイユレやムルソージュヌヴリエールは勿論、基本的に同じサヴィニーの醸造所で造られるネゴシアンワインも美しい出来栄えである。
歴史に裏打ちされた遺産の数々、絶え間なく蓄積されたノウハウ、アンリオ家による積極的な品質改革を経て、醸造責任者フレデリック ヴェベールの確かな仕事によってさらに進化した印象を受けるブシャール ペール エフィス。彼らは過去から未来を見つめ、また新たな境地を切り拓いていく。