Anne-Françoise Gros

概要

ヴォーヌ・ロマネの名門グロ家の一つ
2013年以降カロリーヌとマティアス姉弟が
指揮を執り、滑らかで絹のようなタッチという
このドメーヌの特徴に磨きがかかっている。
  • 1988年アンヌ・フランソワーズ グロとフランソワ パランが結婚。ドメーヌを設立
  • 1996年ジャン グロの引退に伴い畑を相続
  • 2013年アンヌ・フランソワーズとフランソワの子供
    カロリーヌ、マティアス パラン姉弟がドメーヌの運営を引き継ぐ
  • 2023年Le Guide Hachette des Vins 2023にてVignerons de l’année(ヴィニュロン オブ ザ イヤー)に選出
ヴォーヌ・ロマネ村有数の名門グロ家。ドメーヌにその名を冠したアンヌ・フランソワーズは、そのグロ家の6代目として生を受けた。
1988年、アンヌ・フランソワーズはポマール村パラン家のフランソワと結婚。それぞれが所有する畑を合わせて10.1haでブドウの共同栽培を始め、ここにドメーヌ アンヌ・フランソワーズ グロが誕生。
やがて2人は「華やかさよりもバランス、アロマが際立ったやさくしくシルキー」なワイン造りを目指して歩み出したのである。

現在、ドメーヌを引き継いだのは、娘のカロリーヌと息子のマティアス。
カロリーヌはコマーシャル ディレクターとして販売や広報を担当しながら経営の舵を取る。マティアスは2013年以降、醸造責任者としてワイン造りを担っている。
アンヌ・フランソワーズ グロが送り出すワインは、これまでも決して派手さや重厚感で勝負するものでなかったが、若きマティアスが醸造を担うようになると、「雑味が無く、滑らかで絹のようなタッチ」という、このドメーヌの特性にさらに磨きがかかった。
ヴォーヌ・ロマネの名門グロ家のひとつ
現在のグロ家の系譜にあるのは、アンヌ グロ、グロ フレール エ スール、ミッシェル グロ、そしてこのアンヌ・フランソワーズ グロの4つ。グロという名前から混同されがちだが、家系図をご覧いただければ、それぞれが独立したドメーヌであることがおわかりいただけるだろう。4つのドメーヌはその成り立ちから似た畑を所有しているが、そこから生み出すワインにはそれぞれ独自のスタイルが貫かれている。
グロ家の礎を築いたのは、4代目のルイ グロ。ルイの息子ジャンとジャニーヌ夫妻の長女として生まれたのがアンヌ・フランソワーズ。1996年、父ジャンの引退に伴いジャン グロのドメーヌは、長男ミシェル(ミシェル グロ)、次男ベルナール(グロ フレール エ スール)、そしてアンヌ・フランソワーズ(A.F.グロ)の3人の子供たちが分割して相続。さらにルイの娘フランソワーズも娘のアンヌにドメーヌを譲渡(アンヌ グロ)し現在に至っている。
■グロファミリー家系図

畑と造り

名門グロ家の畑と
伝統を受け継ぎながら、
素材を重視し
よりエレガントなワインを求めて。
リシュブール
マティアス、カロリーヌと向かったのはドメーヌを代表する特級畑リシュブールだ。斜面に向かって立つと右手中腹の少し上の部分0.6haがアンヌ・フランソワーズ グロの所有。その斜め上の石垣の先にはクロ パラントゥが見える。
A.F.グロが所有する区画の下にはアンヌ グロ、ドメーヌ ド ラ ロマネ・コンティとルロワが。 上にはグロ フレール エ スール、メオ・カミュゼの所有区画が続く。
オー レア
次に向かったのが1級畑クロ デ レア の南側に拡がるオー レアの畑。アンヌ・フランソワーズ グロは、オー レア のうちおよそ1.6ha(畑の約17%)を所有している。マティアスとカロリーヌは、ひとつひとつのブドウ樹に優しく触れながら、畑の中をゆっくり歩く。
格付けは村名ながらかつては1級と同等の扱いを受けたオー レア。
ジャン グロから引き継いだヴォーヌ・ロマネ村の畑であり、同じグロファミリーであるミシェル グロが所有する1級格付けの畑クロ デ レアに隣接するオー レア。このオー レアはINAOの格付け時に村名とされてしまったが、クロ デ レア同様高い評価を受けていた。一部の区画がくぼんでいることが格下げの原因であるという。他にはティボー リジェ ベレール、ドメーヌ ビゾ、ジャック カシュー エ フィスなどが区画を所有している。
■アンヌ・フランソワーズ グロ所有畑一覧
アンヌ・フランソワーズ グロの所有する畑は計13.7ha。そのうちグロ家から受け継いだヴォーヌ・ロマネ村の畑は5つ
所有畑 面積(ha)
リシュブール 0.6
エシェゾー 0.3
ヴォーヌ・ロマネ メズィエール 0.3
ヴォーヌ・ロマネ クロ ド ラ フォンテーヌ 0.4
ヴォーヌ・ロマネ オー レア 1.6
ヴォーヌ・ロマネ レ シャランダン 0.3
シャンボール・ミュジニー 0.4
ポマール レ ザルヴレ 0.3
ポマール レ ペズロール 0.3
ポマール レ シャンラン 0.1
サヴィニール クロ デ ゲット 0.7
ボーヌ レ ブシュロット 0.3
ボーヌ レ モントルヴノ 0.3
ブルゴーニュ 0.7
ブルゴーニュ オート コート ド ニュイ 3.5
ボジョレー ムーラン ナ ヴァン 3.6
合計 13.7
  •    グラン クリュ
  •    プルミエ クリュ
ピュアな感性が導くマティアスのワイン造り。
畑から戻りワイン造りについてマティアスに話を聞いた。
受け継いだドメーヌ本来のスタイルは大きく変えていないが、モダンで透明感あるスタイルを求めながら、彼のピュアな感性が赴くままに、父フランソワが確立した雑味が無く滑らかで絹のようなタッチを持つワインの精度を高めているとのこと。

そのために彼が着手したのが、熟成に使用するオーク樽の見直し、より短い低温マセラシオン、新樽比率の引き下げ、そして全房発酵の導入である。
樽の焼き加減は軽めにし、新樽の比率も徐々に低下させている。またガラスで作られたワイングローブを導入するなど、美しくみずみずしい果実味がより感じられる造りとなっている。
加えて 全房発酵の導入も無視できない変更点であろう。17年にボジョレーに畑を入手したことから試験的に開始したが、現在では全般的に使用をしている。全房の比率はグランクリュで最大50%程度とのことである。このような変化を加えながら、よりエレガントな味わいのワイン造りを目指している。

ワイン

派手さで勝負するのではなく、
あくまでもバランスを求め、
アロマが際立ったやさしく
シルキーなタッチのピノ ノワール。
■リシュブール
樹齢15〜75年のブドウから造られる。
カシスなどの黒い果実にスミレ、バニラ、スパイスが優雅に香り、ヴェルヴェットのようなふくよかな口当たり。年に2,400本ほどしか精算されない稀少なキュベ。
■ヴォーヌ・ロマネ オー レア
アンヌ・フランソワーズ グロらしいヴォリューム感があり、香り高く力強いタイプに仕上げており、リッチな味わいと硬質なタンニンはブルゴーニュファンを引きつけて止まない個性的なスタンスを貫く。アタックの肉厚で澄んだ印象からアフターにかけて、タンニンがじわりと口の中に広がり複雑さのある余韻が続く。

畑の特徴を女性の肖像画で表現する
エレガントなエチケット

アンヌ・フランソワーズ グロがリリースするワインのエチケットには、すべてに美しい女性が描かれている。
実はこの肖像、アンヌ・フランソワーズの娘カロリーヌとロザリーの表情をベースに各テロワールの特徴を盛り込み、赤系色のチョークタッチで描くサンギーヌ技法の人物画家マリ・ポール ドヴィール・シャブロールが手がけたもの。「ブルゴーニュの偉大さ、クラシックさ、エレガントさ」を表現したものであり、キュベによって異なる。

フィロソフィー

言葉にも立ち居振る舞いにも
気負いが感じられず、まさに自然体のふたり。
そのピュアな人柄がこのドメーヌの生み出す
ワインにつながっている。
インタビューはカーヴで行われた。カメラと照明がセットされ私たちスタッフの視線が集中しても、マティアスとカロリーヌの表情に変化はない。畑からドメーヌの中を案内してくれるときもそうだったが、彼らには肩に力が入っている様子が全く見受けられないのである。発する言葉にも仕草にも、良く見せようとかアピールしようという意志が微塵も感じられず、言うなれば自然体。名門グロ家の血筋を継ぐサラブレッドでありながらどこまでもピュアなふたりに、ワイン造りについて語ってもらった。

エクスペリエンス

新しい技術も積極的に取り入れ先代から続く
A.F.グロらしいシルキーで優雅なタッチ
の精度を高めたマティアス。その彼が生み出す
滑らかで美しいリシュブールと
ヴォーヌ・ロマネの数々のワインは必見。
マティアスとカロリーヌは両親からドメーヌを受け継いだ後も、ワイン造りに関して大きく物事を変えていないと言う。
事実、父の代でもアンヌ・フランソワーズ グロの特徴は派手さや力強さではなく、シルキーな舌触りと優雅な香りを放つピノノワール。マティアスはこれを確実に継承しながらもその精度をアップし、さらに透明感ある独自のスタイルを生み出している。
その背景には、子どもの頃から父の姿を見てブドウ樹とワインと共に育った環境がある。そしてブドウ樹と対話し熟成を進めるワインのつぶやきを聞きながら感性に従い ワインを造り出すという、ある意味天賦の才を持ったタイプの造り手であることが大きな要因であるようだ。
あくまでも自然体で、自分をひけらかすこともない。
一見ワイン造りに対して無欲のようにも見えるが、ブドウの力を余すことなく引き出し、ワインの美味しさを求めることに関しては果てしなく貪欲な男。それがマティアスなのである。実際にLe Guide Hachette des Vins 2023にてヴィニュロン オブ ザ イヤーに輝いたように彼の手腕が高く評価され始めている。

アンヌ・フランソワーズ グロはややもすると目立ちにくい存在だったかもしれない。だからこそ、改めてここでマティアスの感性と才能に注目をしたい。
よりエレガントでピュアさの感じられるワインを求め磨き続ける自然体な姿に大きな期待をしている。